福島第一原発事故後のテレビ会議録画に対する取材・報道制限の撤回を求める弁護士有志声明
脱原発弁護団全国連絡会からも有志が名前を連ねました。
2012年8月3日
弁護士 梓澤 和幸
同 大橋 正典
同 海渡 雄一
同 笠原 一浩
同 河合 弘之
同 北 村 栄
同 光前 幸一
同 薦田 伸夫
同 清水 勉
同 高橋 洋平
同 只野 靖
同 東澤 靖
同 藤原 真弓
同 三宅 弘
同 望月 賢司
同 山下 幸夫
(50音順)
1 はじめに
私たちは、東京電力の福島原発事故の真相を隠そうとする動きを憂慮し、事故の情報を公開させ、真相を明らかにすることが、市民に主権を取り戻す上で必須のものとなっていると考える弁護士有志である。
福島第一原子力発電所の事故後のテレビ会議の状況を録画した映像について、東京電力が報道機関に公開するとしているが、我々は最悪の原発事故の真実について市民の知る権利を擁護し、知る権利に奉仕する報道機関の報道の自由と取材の自由を尊重する立場から東京電力の公開方法に異議を述べ、以下の通り声明する。
2 経緯
この映像は事故当日の3月11日から5日間の計150時間分で、東電本店と発電所の間のやり取りが録画されている。東電は来月6日から5日間、1社一人、約30時間だけ、社員のプライバシーに配慮するとして、一部を画像処理して公開する方針を示していた。
枝野幸男経済産業大臣は7月30日に東京電力に対し、公開方法を改善するよう指示した。すなわち、枝野大臣は〈1〉報道関係者が映像を十分に閲覧できる公開期間を確保する、〈2〉公開対象となる映像の範囲や公開の方法は報道関係者の意見も踏まえ、柔軟に対応する、〈3〉公開終了後も映像を処分しない、の3点を指示した。
これを受け、東京電力は8月1日までに視聴期間の制限については公開期間を9月7日まで延長し、大手報道機関には同時に2人までの視聴を認めるとした。しかし、〈1〉東京電力は東電本店の会議室(視聴室)に設置されたパソコンに保存されている映像を、報道関係者がその場で視聴する形で公開し、メモは認めるが録画や録音は禁止する、〈2〉東京電力の社内報告書に記載されている幹部以外の個人名の報道を禁止するとの条件に従うよう求め、記者の誓約書の提出を求めていた。
報道機関やフリー記者からの抗議を受けても、東京電力はこのような方針を撤回しないまま、8月1日、初日と2日目の視聴の申し込み受け付けを締め切ったとされる。
3 報道は民主主義社会において市民の知る権利に奉仕するものである
最高裁判所は,「報道機関の報道は,民主主義社会において,国民が国政に関与するにつき,重要な判断の資料を提供し,国民の『知る権利』に奉仕するものである。したがって,(中略)事実の報道の自由は,表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにあることはいうまでもない。また,このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには,報道の自由とともに,報道のための取材の自由も,憲法21条の精神に照らし,十分尊重に値するものといわなければならない。」(最高裁判決昭和44年11月26日「博多駅取材フィルム提出命令事件」)と判決している。
にもかかわらず、報道機関の取材に関して東京電力が上記のような制限を付すことは、国民の知る権利に奉仕することを付託された報道機関の報道の自由、取材の自由に対する不合理な制限である。報道機関が、もし、このような制限を唯々諾々と受け容れるならば、表現の自由の守り手である報道機関の自殺行為にもなりかねない。
4 社員のプライバシーは制限の根拠とならない
東京電力はこのような制限の根拠として、従業員のプライバシーを根拠としている。しかし、東京電力はその役員らの事故以前と事故後の誤った判断の積み重ねによって、福島第1原発事故という人災を引きおこした当事者であり、その職員は等しくその責任を厳しく追及されるべき立場にある。福島第1原発事故による被害の重大性、広範性に鑑みれば、人々の知る権利はプライバシー権に遥かに優先する。仮にこの会議記録に責任を問えない従業員の映像や録音が記録されているとしても、それを報道するかどうかの判断は事故当事者である東京電力ではなく、報道機関の良識に委ねられるべきである。
5 映像と音声そのものが国民の知る権利の対象である
7月5日発表された国会事故調報告書でも、東京電力のテレビ会議記録が何度も引用されている。これらは生々しく再現されているものの、その内容は一部公開されたにすぎない。3月14日の委員会では事故調が東京電力社内のテレビ会議の映像のデータの提出を求めたが、東京電力はプライバシーの保護などを理由に東京電力社内での視聴という条件で応じ、録画データそのものの入手はできなかったとされている。
このように、「テレビ会議の録画」は今後の事故の対応を検証する上で、またこの事故によって生活の基盤全体を破壊されている被害者にとっても事故の真相を知るために、極めて貴重で、むしろ代替性のない不可欠の資料である。この録画はいまや国民共有の財産であり、その映像と音声そのものが国民の知る権利の対象であり、録音録画を認めないことには、東京電力とその役員・職員の保身と責任逃れ以外にその理由は見いだしがたい。東京電力に対しては政府から事故対策と損害賠償のため巨額の国費が費やされ、その経営は事実上国営化されている。
東京電力の保有する情報は国の保有する情報と同様に情報公開制度の対象とされるべきである。報道機関は不当な制限を受け容れるべきではない。報道機関は、一致して市民の知る権利の付託を受けた者であることを深く自覚し、このような不当な報道制限をはねのけ、あくまでこのような制限の課せられていない取材と報道を目指すべきである。
6 結論
以上のとおりであって、私たちは
1) 東京電力に対し、福島第一原発事故後のテレビ会議録画に対する取材・報道制限の全面的な撤回を求め
2) 政府に対し、このような不当な取材・報道制限の撤回を指導することを求め、
3) 報道機関に対し、このような不当な取材・報道制限を受け容れないよう求めるものである。
(本声明に関する問い合わせ先)
(東京共同法律事務所 03-3341-3133)
弁護士海渡雄一
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