高浜原発3・4号機の運転差止決定を受け基準適合性審査等の中止を求める緊急申入書
大飯・高浜原発運転差止仮処分申立人、弁護団より、以下の申し入れ書を送りました。
申入書(PDFファイル)
原子力規制委員会
委員長 田中 俊一 様
原子力規制庁
長官 池田 克彦 様
高浜原発3・4号機の運転差止決定を受け基準適合性審査等の中止を求める緊急申入書
2015年(平成27年)4月15日
大飯・高浜原発運転差止仮処分申立人代表
今大地 晴 美
大飯・高浜原発運転差止仮処分弁護団共同代表
河合弘之・海渡雄一
第1 申し入れの趣旨
1 貴委員会は、昨日発令された高浜原子力発電所3号機及び4号機の原子炉について、運転の差し止めを命じる仮処分決定において、貴委員会の策定した新規制基準が多くの点において合理性を欠くと指摘されたことを厳粛に受け止め、高浜原子力発電所3号機及び4号機に関する基準適合性審査の後続手続きを直ちに中止するよう求める。
2 貴委員会は、昨日発令された高浜原子力発電所3号機及び4号機の原子炉について、運転の差し止めを命じる仮処分決定において、貴委員会の策定した新規制基準が多くの点において合理性を欠くと指摘されたことを厳粛に受け止め、すべての原発の基準適合性審査及び後続手続きを直ちに中止するよう強く求める。
第2 申し入れの理由
1 本決定の概要
福井地方裁判所は、平成27年4月14日、関西電力株式会社に対し、高浜原子力発電所3号機及び4号機(以下「高浜原発」という。)の原子炉について、運転の差し止めを命じる仮処分決定を発令した(以下「本決定」という)。
本決定は、原子力発電所の本質的な危険性を認定し、この地震大国日本において、基準地震動を超える地震が高浜原発に到来しないというのは根拠に乏しい楽観的見通しにしかすぎない上、基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得ること、使用済み核燃料を閉じ込めておくための堅固な設備が設けられていないこと、使用済み核燃料プールの給水設備及び計測装置の耐震性がSクラスにされていないこと、免震重要棟が設置されていないことなどから、高浜原発の運転によって直接的に住民の人格権が侵害される具体的な危険性があると判断した。
2 基準地震動の策定方法の誤り
本決定は、活断層の状況から地震動の強さを推定する方式の提言者である入倉孝次郎教授が「基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値であるように思われることもあるが、そうではない。」「私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある。」と答えていることを指摘し、「万一の事故に備えなければならない原子力発電所の基準地震動を地震の平均像を基に策定することに合理性は見い出し難いから、基準地震動はその実績のみならず理論面でも信頼性を失っていることになる。」と断じている。
このような判示は、我々が、全国の原発訴訟において軌を一つにして主張してきた基準地震動の策定手法に関する規制基準の根本的な誤りを裁判所が認めたものにほかならない。
3 新規制基準が合理性を欠く点
そして、本決定は、新規制基準は緩やかにすぎ、これに適合しても原発の安全性は確保されない、新規制基準は合理性を欠く、と明確に述べている。そして、新規制基準が合理性を欠く点を次の6点に渡って指摘した。
高浜原発「の脆弱性は、①基準地震動の策定基準を見直し、基準地震動を大幅に引き上げ、それに応じた根本的な耐震工事を実施する、②外部電源と主給水の双方について基準地震動に耐えられるように耐震性をSクラスにする、③使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込む、④使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性をSクラスにするという各方策がとられることによってしか解消できない。」
また、事故時の「事態の把握の困難性は使用済み核燃料プールに係る計測装置がSクラスであることの必要性を基礎付けるものであるし、中央制御室へ放射性物質が及ぶ危険性は耐震性及び放射性物質に対する防御機能が高い免震重要棟の設置の必要性を裏付けるものといえるのに、これらのいずれの対策もとられていない。」
「原子力規制委員会が策定した新規制基準は上記のいずれの点についても規制の対象としていない。免震重要棟についてはその設置が予定されてはいるものの、猶予期間が設けられているところ、地震が人間の計画、意図とは全く無関係に起こるものである以上、かような規制方法に合理性がないことは自明である。」と指摘する。
本決定は、貴委員会が、これらの各問題について適切に対処し、原発の安全性を確保する役割を果たすことが求められているが、新規制基準はいずれの点についても規制の対象としておらず、貴委員会が求められる役割を果たしていないことを指摘している。
4 伊方最高裁判決の枠組みに沿う決定
本決定は、伊方最高裁判決の枠組みのもとで、自らの判断を基礎付けており、この点でも、他の原発訴訟に大きな影響を及ぼす可能性がある。
すなわち、本決定は、改正原子炉規制法の「設置変更許可をするためには、申請に係る原子炉施設が新規制基準に適合するとの専門技術的な見地からする合理的な審査を経なければならないし、新規制基準自体も合理的なものでなければならないが、その趣旨は、当該原子炉施設の従業員や周辺住民の生命、身体に重大な危害を及ぼす等の深刻な災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性につき、十分な審査を行わせることにある(最高裁判所1992年10月29日第一小法廷判決(伊方最高裁判決)参照)。」とし、この決定が伊方最高裁判決の枠組みのもとに位置づけられることを明確にしている。
5 新規制基準に求められるべき合理性
その上で、「新規制基準に求められるべき合理性とは、原発の設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていることであると解すべきことになる。しかるに、新規制基準は緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない。原子力規制委員会委員長の『基準の適合性を審査した。安全だということは申し上げない。』という川内原発に関しての発言は,安全に向けてでき得る限りの厳格な基準を定めたがそれでも残余の危険が否定できないという意味と解することはできない。同発言は、文字どおり基準に適合しても安全性が確保されているわけではないことを認めたにほかならないと解される。新規制基準は合理性を欠くものである。」と結論づけているのである。
6 規制委員会は司法の良識の前に基準適合性審査及び後続手続きを直ちに中止すべきである
以上のとおり指摘した本決定の判示からすれば、本決定は、関西電力だけでなく、貴委員会にこそ向けられたものである。
よって、貴委員会は、本決定において、貴委員会の策定した新規制基準が多くの点においての合理性がないと指摘されたことを厳粛に受け止め、高浜原発に関する基準適合性審査の後続手続きだけでなく、すべての原発の基準適合性審査の手続きを直ちに中止するよう強く求める。
以上
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