川内原発仮処分即時抗告審第1回の審尋期日報告
先月告知いたしました、川内原発仮処分即時抗告審第1回の審尋期日報告です。
2016年1月20日午前10時から、宮崎支部の204号法廷で川内原発仮処分第1回の審尋が行われた(非公開)。当事者双方がそれぞれの主張立証や、裁判所のリクエストのあったテーマについてプレゼンテーション資料を用いて説明する。即時抗告審の当初から抗告人(住民側)は、当事者が直接、裁判所(裁判官)に説明させていただいたり、裁判所から質問を受ける場を設けることで、理解が深まるとして、審尋期日を開いてほしい旨強く希望していた。即時抗告審の最初の裁判長が交代し、今の裁判長のもとようやく実現した。弁護団では、専門家を交えて議論を重ね、少しでもわかりやすい説明ができるよう準備してきた。この日の中心のテーマは基準地震動である。
鹿児島、宮崎、熊本の抗告人も出席した。
提出書面等の確認の後、まず抗告人(住民側)からは海渡雄一弁護士が原発事故の被害論につき、福島第一原発事故の被害の現状を踏まえ、川内原発での過酷事故が起きたときの被害、人格権に基づく差し止め請求権の根拠、立証責任等について説明を行った。これは裁判所からのリクエストのあったテーマである。特に強調したのは、火山による被害である。原決定(2015年4月22日鹿児島地裁)では、大規模カルデラ噴火では火砕流でみんな死んでしまうのだから、原発事故による人格権侵害はないとしか読めない認定をしている(原決定182頁)。しかしながら、火砕流噴火により日本全国が放射性物質に覆われる可能性も否定できない。大規模カルデラ噴火の災害では生き延びる人もおり、原発事故さえなければ火山灰に覆われた大地からも復興することができるのであるから、この原決定は明らかに誤りである。
相手方(九州電力)より、事故の際の安全確保について(裁判所からのリクエストのテーマ)、地震動の評価についてそれぞれ九州電力社員より説明が行われた。
安全対策については、説明中に何度も出てきた「5重の障壁(燃料ペレット、燃料被覆管、原子炉容器、現使途格納容器、原子炉建屋)で守る」との文言に驚いた。福島第一原発事故でこれらは「5重の障壁」などとは呼べないものであること周知の事実となったはずである。全体として、まるで福島第一原発事故などなかったかのような内容であった。
つづいて、地震動については地震の発生のメカニズムの基本から、評価方法、本件川内原発における基準地震動についての説明が行われた。結論として、「地域性」という言葉を何百回と用いて、九州地方を大きな地震が襲う可能性は低いのであるから、現在の基準地震動で十分であるというものであった。
基準地震動は原子力発電所の耐震設計の根幹となるものであり、基準地震動を上回る揺れが起きる超過確率は国際基準においては1万年から10万年に1回でなければならないとされている。日本の原子力発電所の敷地内でわずか10年の間に5回もこの基準地震動を超えた。九州電力の基準地震動はSs1は540ガル、Ss2 は620ガルであり、全国の原発に比べて、明らかに低い。九州電力は上記の5回の基準地震動超えは、それぞれ個別の地域の特性があったからであり、川内原発は「地域性」を強調し、今のままでも十分安全だと主張しているのである。しかし、上記の5回の基準地震動超えについて個別の特性があったと判明したのは、それぞれの地震が起きた後であって、当時は、その時の最高水準の科学的知見を持って基準地震動を定めたはずである。そうだとすると、川内原発において基準地震動を超える可能性は否定できない。
抗告人からは元GEの佐藤暁氏による日本の原発がいかに非保守的(安全のために余裕が盛り込まれるべきところ、その場合の考慮に欠落さや不十分さがある場合)であるかにつき、特に火山噴火の評価、過酷事故評価について海外での事例なども踏まえて行われた。いわゆる5層の防護において、第4層(過酷事故)、第5層(防災)は特に非保守的である(第5層は規制基準に含まれていない)。
その後、基準地震動について、只野弁護士から抗告人側がいままで主張してきた書面の概要を説明し、原決定では5回の基準地震動超えをクリアした後に現在の新規制基準ができたとの誤った理解のもと書かれたが、実際には現在の新規制基準における地震についての基準は、以前と何ら変わらないことを指摘した。
大阪大学名誉教授の長沢啓行氏からは、原発においては見えない直下型地震に耐えられるか、及び近くの活断層による大地震に耐えられるかが重要であり、そのために基準地震動を策定するところ、九州電力の基準地震動の策定が科学的に見て、想定が不十分であり、本来考慮すべき不確実さが考慮されておらず、いかに過小なものかについての説明が行われた。わかりやすく、気迫のこもった内容だった。
その後、工藤弁護士より、相手方の基準地震動の策定の不十分さについて、実際に川内原発敷地に起きた地震動を無視していること、震源を特定せず策定する地震動につき、留萌支庁南部地震の観測記録をそのまま用いるのみであることを改めて指摘した。
また、基準地震動の年超過確率について、甫守弁護士より、日本の超過確率の計算において、いかにごまかしが行われているかを日本地震学会での議論を紹介しながら説明した。
裁判所(裁判長)は双方のそれぞれのテーマの説明後に適宜質問を行い、率直な疑問を当事者双方にぶつけていた。地震動について、かなり勉強していることがうかがえた。裁判所のポーカーフェイスからはどのような心証を得ているかはわからないが、双方の説明を熱心に聴いていた。そして、今回のそれぞれの主張への反論があれば、双方に準備する旨述べた。
なお、予定の時間を経過し、当初予定していた避難計画については。次回の審尋期日に行われることになった。
17時半ころ、宮崎中央法律事務所にて記者会見が行われ、長沢先生も同席のもと、本日の内容についての説明を行った。九電のプレゼンについて、事故時の安全対策については30年前の議論の蒸し返しに唖然としたとの発言があった。また、原審(鹿児島地裁)でのプレゼン以上に、地域性を強調し、他の原発はおいといて、川内だけは地震が起こらないかの主張をしているが、これは他の原発差止訴訟に証拠提出したいとの指摘に思わず会場で笑いも生じていた。
次回第2回目の審尋期日は、1月29日12時45分から予定している。主な内容は地震と安全余裕、そして火山についてである。この審尋終了後、裁判所は決定の準備に入る予定である。審尋自体は非公開だが、終了後に記者会見・報告集会を予定している。
提出書面等、今までの経緯は原発なくそう!九州川内訴訟のサイトをご覧ください。
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