「新規制基準の考え方」検討報告書 ~原子力規制委員会の欺瞞~

2017/07/24

脱原発弁護団全国連絡会では、「新規制基準の考え方」検討報告書 ~原子力規制委員会の欺瞞~を策定いたしました。

全国の原発運転差し止め訴訟等において、被告事業者(電力会社)は、原子力規制庁作成の「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について」を提出しています。3月28日の大阪高裁の高浜原発運転差し止め仮処分の異議審では、これを引き写した、極めて不当な決定がなされました。脱原発弁護団全国連絡会では、この「考え方」について検討した書面を作成いたしました。詳細は、以下序文をご覧ください。

「新規制基準の考え方」検討報告書 ~原子力規制委員会の欺瞞~ (PDFファイル、293頁)


本報告書策定にあたって

原子力規制委員会は,2016年6月29日開催の会議において,原子力規制庁が作成した「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について」(以下「考え方」という。)を了承した[1]。「考え方」は,この僅か1回の会議で策定され,その後,同年8月24日に改訂されている[2]※その後、11月8日改訂.リンク先は改訂版。

原子力規制庁の説明によれば,「考え方」は,新規制基準の内容や考え方について,設置許可基準規則を中心に解説する資料として作成されたものであり[3],更田委員によれば,「考え方」は,法律や規則で要求しているものと安全対策をつなぐ,安全対策の基本的な考え方を理解するための文書ということである[4]

もっとも,田中委員長は,上記会議において次のように発言し,「考え方」が了承された[5]

○田中委員長

今,原子力規制委員会,原子力規制庁が抱えている訴訟案件というのは,多分相当数に,いくつありますかね。

○竹本長官官房総務課法務室企画調整官

法務室の竹本でございます。行政訴訟,設置許可の取消とか差し止めとかを言いますと,今,16件抱えております。

○田中委員長

今,言いましたように16件あって,今後ともたくさん出てくる可能性が否定できないわけで,そういうときに,この基本的な考え方が,私どもが被告ではなかったけれども,大津地裁の判決などを見ても,こういう中身のところまで,今日御説明いただいている資料のようなところまで言及されています。ですから,そういうことに対する私どものきちんとした説明資料として作っていただいたものと私は思いますので,変に分かりやすいというよりは,そういう意味で法的な世界において,きちんとロジカルに,難しくてもいいですよ,そういう場合は。そういう意味で,直す必要があれば直していただくということかと思います。一般的な国民向けの説明資料は,またこれとは全く別のものだろうと私は思いますので,…(略)…だから,そういうことで,今ちょっと御指摘がありましたけれども,少し整理を,見直すところがあれば修正をしていただきたいと思いますけれども,基本的に,特に御意見がなければ,取りあえず第1版の資料として,多分訴訟は毎日のように私の方にも報告が来ていますので,進捗状況とか,そういうところで使えるような資料ということでまとめていただいたと思いますので,原子力規制委員会としてはこれで,この版として了承したいと思うのですが,いかがでしょうか。よろしいですか。

(「はい」と声あり)

○田中委員長

それでは,そういうことにさせていただきたいと思います。

上記田中委員長の発言によれば,「考え方」は,訴訟・裁判で使えるような資料としてまとめられたものということである。このような田中委員長の発言を俟つまでもなく,「考え方」の内容を見れば,田中委員長が指摘する大津地裁2016年3月9日高浜原発3・4号機運転差止仮処分決定[6](上記田中委員長の発言における大津地裁の「判決」という箇所は,「決定」の誤りと考えられる。)以外にも,同決定についての異議審決定[7]や福井地裁2014年5月21日大飯原発3・4号機運転差止判決[8],福井地裁2015年4月14日高浜原発3・4号機運転差止仮処分決定[9]を意識していると考えられる項目が多いこと(「考え方」1‐2‐1,2‐2‐2,2‐5‐2,4‐1‐3,4‐2‐2,4‐2‐3,5‐2‐7,5‐2‐8等)からすれば,「考え方」は,まさに訴訟・裁判対策のために作成されたものといえる。

実際,「考え方」は,各地の原発裁判において証拠として提出されており,国を被告とする行政訴訟のみならず,電力会社を被告とする民事訴訟,仮処分事件等においても多く証拠として提出されている。ここで問題となるのが,「考え方」が原子力規制委員会の「主張」としてだけではなく,裁判所が判断する前提となる「証拠」として提出されていることである。本文で検討するように「考え方」の項目の中には,これといった理由を述べることなくほとんど結論しか述べていない項目が多くあり,このような「考え方」が「原子力規制委員会がそのように結論付けている」という理由だけで安易に採用されるとすれば,裁判所の判断の誤りを招き,司法が単に行政に追随するだけの機関に堕すおそれすら生じかねない。

そして,上記懸念は,杞憂とはならず,大津地裁2016年3月9日高浜原発3・4号機運転差止仮処分決定の抗告審において,大阪高裁は,「考え方」の内容の当否を検討することなく,「原子力規制委員会がそのように結論付けている」という理由だけで「考え方」を安易に採用し,2017年3月28日,高浜原発3・4号機運転差止仮処分決定を取り消した[10]

そこで,脱原発弁護団全国連絡会では,「考え方」(2016年8月24日改訂版)の内容及び結論について有志らによる検討を行い,その結果を本報告書に取りまとめた。その詳細については各項を参照していただくより他ないが,総論として,新規制基準はもとより福島第一原発事故の反省を踏まえ原発の安全性を確保するものとはなっていないが,「考え方」はこれが合理性を有するものと強引に取り繕うものである。つまりは,「考え方」は原子力規制委員会の欺瞞の象徴である。

なお,「考え方」が事実上裁判において原子力規制委員会の判断を権威付けるための資料として作成された経緯に鑑み,本報告書では,「考え方」の内容について検討するのみならず,内規,ガイド類を含む新規制基準の体系全体や適合性審査の実情等についても必要に応じて言及している。

現在原発裁判を担当されている各裁判体におかれては,安全性を著しく軽視する原子力事業者及び規制当局に安易に追従して福島第一原発事故を招いた司法の反省を踏まえ,本報告書の内容を十分ご検討いただき,新規制基準や適合性審査の合理性・妥当性については慎重に吟味し,福島第一原発事故のような悲劇を二度と繰り返さないという改正された原子力関係法令の趣旨を実現していただくよう,心より願ってやまない。

2017年6月1日

脱原発弁護団全国連絡会


[1] 「平成28年度原子力規制委員会18回会議議事録」27頁

https://www.nsr.go.jp/data/000155742.pdf 

[2] https://www.nsr.go.jp/data/000155788.pdf 

[3] 「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方に関する資料の作成について」

https://www.nsr.go.jp/data/000155313.pdf 

[4] 「平成28年度原子力規制委員会18回会議議事録」25頁

[5] 「平成28年度原子力規制委員会18回会議議事録」27頁

[6] http://adieunpp.com/download&link3/160309otukettei.pdf 

[7] http://adieunpp.com/download&link3/otsuigikettei.pdf 

[8] http://adieunpp.com/download&lnk/140521judgment.pdf 

[9] http://adieunpp.com/karisasitome/karisasi_pdf/150414decision.pdf 

[10] http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/742/086742_hanrei.pdf 

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