声明 「ばらつき条項」を削除する基準地震動等審査ガイド改悪に反対し、強く抗議する
本日、私たち脱原発弁護団全国連絡会は標記の声明を発表いたしました。
[声明PDF]
2022年3月7日
脱原発弁護団全国連絡会
共同代表 河 合 弘 之
同 海 渡 雄 一
1 声明の趣旨
脱原発弁護団全国連絡会は、「ばらつき条項」を削除する基準地震動審査ガイド改悪に強く反対し、原子力規制委員会が「ばらつき条項」に従った審査をすることを求める。
2 理由
2011年3月11日東京電力福島原子力発電所事故による悲惨かつ甚大な被害を踏まえ、原子炉施設の審査体制が改められた。同時に審査基準の厳格化が図られ、基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド(以下「地震動審査ガイド」という)などの審査基準が定められた。地震動審査ガイドは「経験式が有するばらつきを考慮する必要がある」とする「ばらつき条項」を定めている。しかし、新たに「原子力利用における安全の確保」のため設置された原子力規制委員会は、不当にもこの規定を無視して原子炉施設の審査をしてきた。
2020年12月4日の大阪地裁判決は、基準地震動の策定に当たっては、地震動審査ガイドⅠ 3.2.3(2)の「ばらつき条項」に基づいて、経験式が有するばらつきを検証して、経験式によって算出される平均値に何らかの上乗せをする必要があるか否かを検討すべきものであるとし、「ばらつき条項」を適用しない基準地震動の策定は設置許可基準規則4条3項に適合しないものとして、関西電力大飯発電所3号機・4号機にかかる設置変更許可処分を取り消した。同判決は、原子力規制委員会が自ら制定した地震動審査ガイドの「ばらつき条項」を無視する誤りを正当に指摘したものである。
2022年2月24日、原子力規制委員会は地震動審査ガイドの改正案を了承した。今後、意見募集を踏まえて正式に改定する方針である。
今般の改正案の中心となるのは、前述の「ばらつき条項」を削除するというものである。原子力規制委員会は、大阪地裁の指摘するような「ばらつき条項」に適合する審査を行うのではなく、逆に、「ばらつき条項」自体を地震動審査ガイドから削除するという改悪を目論んでいる。同地裁における裁判においては、「ばらつき条項」の明示に反して、あたかもなにも記載していないかの如くに解釈して主張して、当然裁判所によって否定された。即ち、裁判所によって否定された違法な解釈をもって、今度は、地震動審査ガイドそのものを改悪するというのである。
また、地震動審査ガイドの目的についても、「基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的とする」としていたものを「基準地震動の妥当性を厳格に確認するための方法の例を示した手引きである」として、位置づけを低める表現にしている。地震動評価には具体的な判断基準が必要であり、それがまさに地震動審査ガイドの役割であるのに、方法の例に過ぎないということになれば、地震動評価の妥当性を判断することが困難になる。
原子力規制委員会は、2011年3月11日の福島原発事故を契機に、「原子力利用における事故の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って」(原子力規制員会設置法第1条)設置され、原子力発電所の安全性を担保するために最大最高の責任を有する国家機関であるところ、自ら定めた「ばらつき条項」に違反したと裁判所で認定された途端、その「ばらつき条項」自体を消去するなどという行為は、天に唾する行為であり、これは前述の原子力規制委員会の目的に著しく反する暴挙である。原子力の安全性を担保するなどという責任など担えるわけがない。
この「経験式の有するばらつきの考慮」がなされないと原子炉施設の耐震性の基準となる基準地震動が過小評価されることになる。現実に原子力発電所の危険性を著しく増大させるものであることはいうまでもない。
原子力規制委員会は、これまでにも、広島高裁2017年12月13日決定において原子力発電所の火山影響評価ガイド(以下「火山ガイド」という)にしたがえば四国電力の伊方原発は立地不適であると指摘されこれが差し止められたことに対して、火山ガイドの立地評価の規定を事実上死文化させる「基本的考え方」を委員長指示で原子力規制庁にまとめさせたことがある。今回の地震動審査ガイドの改悪も、「基本的考え方」と同様に、原子力規制委員会の安全性を軽視した本末転倒な姿勢を如実に表すものである。規制のための組織として失格であり、まったく中立ではなく、「規制の虜」は今も続いている。
私たちは、全国各地の裁判所で原発訴訟に取り組む弁護士として、今般の地震動審査ガイドの改悪に強く反対する。そして、原子力規制委員会に対して、大阪地裁の指摘を真摯に受け止め、各原発について「ばらつき条項」に適合する審査を行うよう求めるものである。
以上
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