原子力規制委員会の委員選定に対する抗議声明

2024/10/17

本日、脱原発弁護団全国連絡会は、「原子力規制委員会の委員任命に対して強く抗議するとともに、原子力規制委員会設置法の改正を求める声明」を公表し、e-govのシステムで原子力規制委員会、環境省、内閣総理大臣、経産省に送信いたしました。15時より、オンラインによる記者会見を行いました。

 

声明文 [PDF]

原子力規制委員会の委員任命に対して強く抗議するとともに、

原子力規制委員会設置法の改正を求める声明

2024(令和6)年10月17日

脱原発弁護団全国連絡会

共同代表  河  合   弘  之

共同代表  海  渡   雄  一

1 はじめに

(1)2024(令和6)年9月18日、原子力規制委員会(以下「原規委」という。)の5人の委員のうち、田中知委員及び石渡明委員が任期満了により退任し、翌19日、新たに長崎晋也氏及び山岡耕春氏が委員に任命された(以下「本件選任」という。)。

(2)原規委の構成や人選に関しては、これまでも多くの問題を抱えていたが、私たちは、本件選任により、原規委が、中立・公平な立場で、独立して職務を遂行するとは到底期待できないような構成となったと考える。

(3)原規委の基準適合審査は、これまでも十分なものとはいえなかったが、新たな原規委の下では、国民の安全確保を旨とした審査がなされるとは到底考え難い。私たち脱原発弁護団全国連絡会は、このような中立性・独立性を疑わせる委員の選任に強く抗議し、内閣総理大臣に対し、委員の再考を求めるとともに、国会に対して、委員会の構成人数や委員の欠格要件を定める原子力規制委員会設置法(以下、単に「設置法」という。)を改正することを求めるものである。


2 委員の任命・欠格要件等に関する規定

(1)原規委の委員については、設置法7条1項において、「人格が高潔であって、原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する」とされている。

そして、同条7項には欠格要件が定められており、例えば、原子炉を設置する者、その役員または従業者である者は、欠格要件に該当することになる(同項3号)。

(2)2012(平成24)年の設置法制定当時、政府は、法定の欠格要件に加え、就任前直近3年間に、(1)原子力事業者等及びその団体の役員、従業者等であった者、(2)同一の原子力事業者等から、個人として、一定額以上の報酬等を受領していた者を欠格要件に加え、また、任命に際しては、就任前直近3年間に、(1)原子力事業者等からの寄附の有無やその金額、(2)所属する研究室から原子力事業者等へ就職した学生の有無やその人数について情報公開を求めることを求めていた(2012(平成24)年7月3日・内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室「原子力規制委員会委員長及び委員の要件について」(以下「ガイドライン」という。))。

(3)このガイドラインに対して、日本弁護士連合会は真に適切な委員を選任するためには不十分であり、候補者の原子力安全に関する過去の主要な言動を国会事務局において収集し、国会に提出した上で、候補者を国会に招致し、その資質と識見に関して時間をかけて質疑を行い、そのプロセスを公開し、さらに、その候補者に対する国民の意見を聴取すべきであるの意見を明らかにしていた[1]。

3 ガイドラインの不考慮とこれまでの問題

(1)ところが、2014(平成26)年9月の島崎邦彦委員及び大島賢三委員の任期満了に伴う委員交代に際して、第2次安倍晋三内閣は、このガイドラインを改善するどころか、ガイドラインを考慮しないことを明らかにし(2014(平成26)年6月6日衆議院環境委員会における石原伸晃環境大臣の答弁)、田中知氏及び石渡明氏を委員に任命した。

(2)このうち、とりわけ問題が大きかったのは田中知委員である。

田中知委員は、2006(平成18)年から2010(平成22)年までの間に、原子力事業者である㈱電源開発から100万円、原子力関連企業である(株)日立製作所から120万円、日立GEニュークリア・エナジー(株)から180万円の寄付金を受け取っており[2]、さらには、委員に就任する直前である2014(平成26)年6月まで、原子力事業者である日本原燃㈱や、高速増殖炉の開発・設計を行う三菱FBRシステムズ(株)といった会社からも、多額の報酬を受け取っていたことが指摘されている[3]。

このような利害関係を有する人物は、「専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する」こととされる設置法1条の目的に合致せず、また、「推進側の論理に影響されることなく、国民の安全の確保を第一として行う」こととされる衆議院環境委員会決議1項にも反し、明らかに委員としての適格性を欠いている。

にもかかわらず、第2次安倍内閣以降、ガイドラインは無視され、福島第一原発事故の教訓は忘れ去られ、田中知氏のような人物が原規委の委員に選任されるなど、原規委の中立性・独立性は形骸化していった。

(3)また、大島賢三委員は外交官で、国際連合の人道問題担当事務次長であったが、同委員の退任後、田中知氏が委員となったことで、法学等社会科学について専門性を有する委員はいなくなり、原子力工学や原子炉安全工学など工学系の研究者が3名と、委員(5名)の過半数を占めることとなった(ほかは放射線医学1名、地質学1名)。

このような委員構成の下では、この程度の安全で十分であるという安易な工学的な「割り切り」による判断がなされる可能性が高く、とりわけ地震や津波、火山事象といった自然現象の評価等について厳格な審査がなされず、原発に高度の安全が求められるべきという理念が蔑ろにされる危険がある。


4 本件選任の問題点

(1)このように、本件選任以前にも、原規委の委員の選任に関しては問題点が指摘されてきたところであるが、本件選任はよりいっそう原規委の中立性・独立性に疑念を生じさせるものとなっており、到底容認できない。

(2)まず、山岡耕春氏は、名古屋大学地震火山研究センター所長や東京大学地震研究所の教授等を歴任し、原子力安全委員会核燃料安全専門審査会審査委員、同安全委員会耐震安全性評価特別委員会委員、文部科学省の科学官などを歴任しており、特にモニタリング等の観測技術に係る専門家とされる。委員の選任時には、「科学に正直に、自然に誠実に向き合うことを信条に原子力規制に取り組む」と述べたとされる。

その経歴だけを見ると、公正な研究者のように見えるかもしれない。しかし、山岡耕春委員の経歴を詳細に検討していくと、同委員は、2011(平成23)年3月の東北地方・太平洋沖地震の発生当時文科省の科学官(2008〜2012年)をつとめており、内閣府地震調査推進本部下の地震調査委員会の事務局を担当していた。地震直後に開催された臨時の地震調査委員会において、委員からこの地震や津波が想定されていたことを公表すべきという意見が多くあがる中、山岡氏は委員会事務局の立場で、「後出しジャンケンのように思われるのはよくない」などと強硬に反対し、この地震が「想定外」のものであったとの地震調査委員会の見解公表を主導した人物である。

2011年当時、地震調査委員会は、2002年の長期評価の改訂を準備し、3月9日には、福島沖を含む日本海溝沿いで、超巨大地震が発生する可能性があるとの長期評価の改訂版を公表する予定であった。ところが、事務局は、島崎氏ら委員の知らないところで、東京電力などと秘密会議を開いていた。そして、電力会社と意見をすり合わせるため、その公表は4月に延期された。この公表が延期されていなければ、宮城から福島にかけての海域で、巨大津波を伴う地震が発生する可能性があることが、9日の夜のテレビ、10日の新聞朝刊で広く報じられたはずである。津波による死者は宮城県南部や福島で大量に発生しているが、津波についての事前の警告がなされていなかったためと推察される。

3月11日に東日本太平洋沖地震が発災し、同日臨時地震調査委員会が開催された。多くの委員が、貞観の津波の繰り返しを予測して長期評価を準備していたことを公表すべきだとの意見を述べた。山岡氏は、「後出しジャンケンのように思われるのはよくない」「こういう事態で言うことが潔いのかという気がする」と、不可解な意見を述べ、委員の多数の意見を押し切って、この地震は「想定外」の大地震であったとの見解を委員会の見解として公表したのである[4]。

山岡氏は、委員に選任された後、原子力規制委員会のホームページ上で、委員からの一言として、「2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震は、私を含め地震学者の予想を超えるまさかの規模の地震で、超巨大地震による被害のすさまじさを見せつけられました」と述べている。しかし、上述のとおり、山岡耕春委員は、地震調査委員会の内部にいて、この地震が事前に想定されていた事実をみとめながら、「後出し」になるとして、これを公表することに反対したのであって、東北地方・太平洋沖地震が想定外の地震ではなかったことは当然に認識していた。よって、この一言は、自らの行った長期評価の改訂版の隠ぺいを糊塗するためになされた虚偽の説明である。原子力の推進のために、原子力事業者と結託して行政をゆがめ、このような虚偽の説明を今もなお繰り返すような人物は、到底公正な人物とは言えず、法の定める「高い識見」を有する者、「人格が高潔」な者であるとは言い難い。

以上のとおり、山岡耕春委員は、設置法の定める委員の要件に到底適合しないことが明らかである。

(3)次に、長崎晋也委員は、修士課程を修了後、1988(昭和63)年4月に四国電力(株)に入社し、少なくとも3年間程度は同社で勤務していたようであり、まさに規制される側である原子炉設置事業者の従業員だった者である。これまで、日本原子力研究所や日本原子力研究開発機構など、原子力の利用を推進する研究機関での勤務経験が長い委員はいたが、原子炉設置事業者の従業員だった者で委員に任命されたのは同委員が初めてである。

このような者を委員にすることは、原規委が、中立・公平に、独立して職務を行い得ない組織となったことを強く疑わせるものであって、国民の原子力規制行政への信頼を著しく損なうものという外ない。


5 委員の任命や欠格事由等についての法改正の必要性

(1)現行の設置法上、欠格要件は、現在、原子炉設置者、その役員または従業者である者等に限られているが、過去にそのような立場にあった者についても、原規委としての職務の中立性・独立性を疑わせることになんら変わりはない。

福島第一原発事故の重要な教訓の一つが規制と推進の分離だったこと等も踏まえるならば、過去にそのような立場にあった者、あるいは、原子力事業者等から、個人として、一定額以上の報酬等を受領していた者についても欠格要件とすべきである。

前述のとおり、ガイドラインは、就任前直近3年間に、(1)原子力事業者等及びその団体の役員、従業者等であった者、(2)同一の原子力事業者等から、個人として、一定額以上の報酬等を受領していた者を欠格要件に加えているが、これを就任前直近3年間に限定することは合理性に乏しく、もっと長期の履歴も、欠格要件にすべきである。

(2)また、委員の任命に当たっては、両議院の同意を得ることとされているところ、衆議院及び参議院は、本件選任に際して、長崎晋也委員及び山岡耕春委員の上記4の問題点を看過して同意を行ったものといわざるをえない。

このことに照らせば、両議院の同意の現行制度は、真に適切な委員を選任するために十分に機能していないといわざるを得ない。例えば、アメリカにおける高官の任命についての上院における公聴会開催と承認の制度やイギリスにおける公職任命コミッショナー制度[5]などを参考に、真に信頼し得る、実力本位で公正な委員の選任を行うべきである。

(3)現行の設置法は、以上の観点から不十分であり、上記観点を踏まえた法改正を行うべきである。

6 委員の構成人数と専門分野

(1)設置法上、委員の人数については、委員長及び委員4人をもって組織するとされている(同法6条1項)。

しかし、前述のとおり、原規委の現在の構成は、工学者が3名、放射線医師が1名、地震・地質などの学者が1名と、いびつなものとなっている。工学とは、物理学や化学などの基礎科学を踏まえてその実用を目指す学問であり、経済性やコストとの兼ね合いで、どの程度の安全まで考慮するかという割り切りを行うものであるが、かねてより、工学者の判断が、地震学や火山学などの基礎科学や、原発稼働のリスクを負うことになる周辺住民らの受忍可能性を適切に踏まえたものになっていないという批判が存在する。

また、原発は、地震に関するものでも地質学と地震動学では専門分野が異なるし、火山に関するものでもマグマ学とテフラ学とでは専門分野が異なるなど、非常に広範な基礎科学を参照しなければならない科学技術である。にもかかわらず、基礎科学に関する専門家が1名というのはあまりにも少な過ぎる。

さらに、前述した周辺住民らの受忍可能性を考えるにあたっては、哲学や法学など社会科学の専門家も委員に含めることが不可欠である。

(2)このような観点に照らすと、そもそも委員の人数が委員長を含めて5名というのは少な過ぎると言うべきである。

また、工学にのみに偏ることなく、様々な分野の専門家の英知を結集できる構成とするため、委員の人数を増員するための法改正を行うべきである。


7 まとめ

(1)以上のとおり、本件選任は、原規委の中立性・独立性を著しく損なうものであり、現在の原規委の下では、国民の安全確保を旨とした審査がなされるとは到底考え難い状況となっている。

(2)われわれ脱原発弁護団全国連絡会は、このような本件選任に強く抗議し、内閣総理大臣に対し、委員選任について再考を求めるとともに、国会に対して、原規委の構成人数や委員の欠格要件を定める設置法を改正することを強く求める。

以上


[1] 2012(平成24)年7月19日日本弁護士連合会会長談話

[2] 中野洋一「原発産業のカネとヒト」30頁、『社会文化研究所紀要』70巻1頁

[3] 2014(平成26)年7月5日朝日新聞「原子力業界から報酬 規制委次期委員の田中氏 先月まで」と題する記事

[4] 島崎邦彦『3.11 大津波の対策を邪魔した男たち』青志社・235~239頁

[5] 日隅一雄・翻訳、青山貞一・監修『審議会革命:英国の公職任命コミッショナー制度に学ぶ』現代書館2009年、高澤美有紀「アメリカ及びイギリスにおける公職任命の議会による統制」(国立国会図書館『レファランス』平成25年10月号所収)

 

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