速報:広島高裁松江支部、島根原発の差止認めず!
本日、広島高裁松江支部(松谷佳樹裁判長、森里紀之裁判官、徳井真裁判官)は、住民らの中国電力島根原発2号機の運転差止仮処分申立てを退ける判断をしました。
弁護団声明(広島高裁松江支部の不当決定について)
2024年5月15日
島根原発2号機運転差止仮処分弁護団・申立人団
1 本日、広島高裁松江支部(松谷佳樹裁判長、徳井真裁判官、森里紀之裁判官)は、住民らが、島根原発2号機の運転差し止めを求めていた仮処分事件において、住民らの申立を却下した(以下「本決定という。」)。
2 本決定は、原子力規制委員会の判断を無批判に前提として、思考停止に陥っている。我々の指摘を考慮するように見せかけながら、結論としては原子力規制委員会の判断をことごとく容れてしまっている。行政追随の思考停止決定である。
各争点についての問題点は次のとおりである。
(1)判断枠組み
本決定は、「債権者らが主張する人格権侵害の危険は、本件原子炉において異常な水準で放射性物質が本件発電所敷地外に放出されるような重大な事故が発生した場合に、実効性を欠く避難計画の下に困難な避難を強いられることにより、上記事故により放出された放射性物質による放射線に被曝する危険があるというものであるから、上記事故が発生する具体的危険性があることがその前提となっているというべきである」とする。 このような判断は、福島原発事故の教訓を踏まえないものとして批判されなければならない。福島原発事故が我々にもたらした教訓は、①安全が確保されていると言っても設計の前提条件の範囲内にとどまること、②したがって設計の前提条件を超える事象に対しては安全が担保されないこと、③設計の前提条件を超える事象が起こるかどうかは現在の科学的知見の下では分からないこと、④だからこそリスク認識を転換する必要があることだった。すなわち、原発事故が発生する具体的危険性があるかどうかは現在の科学技術水準ではわからないので、分からないことを前提に安全対策を講じなければならないというのが、福島原発事故の教訓だったはずなのである。「原発事故が発生する具体的危険性という現在の科学技術的知見では分かりようのない事象が認められない限りは、避難計画が不十分でもその原発は安全だ」というのは、福島原発事故の教訓を無視したものであって、延いては平成24年改正の原子力関連法令等の趣旨にも反するものであって、断じて容認できない。
(2)地震に対する安全性について
基準地震動820ガルという数値が地震観測記録において低水準な地震動であることは債権者らにおいて、十分立証したところである。裁判所もその事実を否定することができないため、敷地周辺の地質構造、地盤構造を比較しない限り、ガル数の大小をもって危険性を論じることができないとしている。その主張は債務者の主張そのものであり、その債務者の主張に対しては、債権者らは数値が低水準であるかどうかという問題とそれが許容されるかどうかは、別問題であることを主張した。その主張に対して、債務者は有効な反論ができなかったのである。いわば、言い負かされた方の主張をそのまま裁判所の見解とすることは、論理性と平等性を旨とする裁判所にとって最も許されない態度であるといえる。地震動に関するすべての問題について、裁判所はすでに論破されている債務者の主張を、裁判所の見解とするという共通の過ちを犯している。
(3)震源極近傍地震動について
債権者は、断層から発電所敷地境界まで1.3kmしかなく、断層から2.0kmの距離を前提とした本件適合性審査に過誤、欠落がある旨主張していたところ、本件決定(71頁)は、「断層から発電所敷地境界まで1.3kmの場合あるいは基準地震動による地震力に対する評価が要求されている地盤、施設等のうち、震源(断層)から最も近いものとの距離を基準に2km以内である場合当然に『震源が敷地に極めて近い場合』に該当するとする確たる根拠はない」と判示する。
しかし、上記判示は意味不明であり、日本語の文章としての体を為していない。上記判示を善解しても、要するに、「震源が敷地に極めて近い場合」とは具体的にどの程度の距離であるのか、確たる根拠をもって債権者らに対して示せと述べているに等しく、不可能を強いるものである。
その他にも、本件決定は、当該争点について、債務者の評価が「不合理であるとはいえない」等と繰り返し、債権者側に本件適合性審査が不合理であることの明確な主張、疎明を求めるものといえる。しかし、本件特別考慮規定は、そもそも地震や地震動の想定に関する知見は不確定である上、震源極近傍の地震動についてはさらに不確定性が大きいからこそ、特に十分な余裕を設定するよう、新規制基準において規定されたものである。債務者の評価の不合理性について、債権者側に厳しい主張、疎明責任を課すことは、本件特別考慮規定の趣旨にも明らかに反する。
(4)火山
次に、火山については、三瓶山における噴火規模の想定が過小で、過去最大規模の噴火によって、中国電力の想定を2倍程度上回る降灰があり得ること、これにより冷却機能が喪失する具体的危険があることを主張していたところ、本決定は、債権者らの主張に対し、「地下のマグマ溜まりの存在や規模等の情報の精度について疑問を呈することについては理解できる部分もある」とまで認定し、債務者の示す個々の根拠については問題があるかのように認定した。本来はこの判断だけで、債権者らの請求を認容すべき判断である。ところが、決定は、規制委員会が、それらを総合的に判断したのだから、全体として合理的な判断である、とした。しかし、総合的な判断の具体的内容や合理性の根拠は全く示されていない。
また、火山ガイドは規制要求ではないから、火山ガイドに違反しても安全審査が直ちに不合理になるものではないとか、新しい知見に対しては、バックフィット制度によって規制に反映させるというのが炉規法の建付けであるから、債権者らの指摘は新しい知見が確認できた時点で考えれば十分、などとも判断している。
要するに、本決定は、債権者らの主張を排斥できないにもかかわらず、どんなに科学が未熟でも、今分かっていることだけを考慮すればいいのだ、科学の不定性など考えなくてもよいのだと開き直っているというほかない。しかも、実際には、現在の科学で、大規模な噴火の発生可能性が十分小さいとはいえない、という知見が存在しているのに、このような知見は考慮していない。結局、裁判所は、原発の稼働に都合の良い知見だけに目を向けているのであり、恣意的な判断というほかない。
科学に限界があり、現在の知見では分からないような事象が起こり得る、というのが福島第一原発事故の最大の教訓だったにもかかわらず、これを全く忘れ去ったかのような判断には、驚き呆れるばかりである。同裁判所は、このような福島第一原発事故の教訓を忘れ、万が一の際に深刻な被害が生じる原発の安全評価においては、最高度の安全が求められる、不定性を保守的に評価する必要があるという安全評価の基本を全く理解しないまま本決定を下したものであり、また一つ、司法の信頼を大きく損なう判断を増やしたものといわざるを得ない。
(5)立地審査指針
立地審査指針は、人々を被ばくから守るための指針である。立地審査指針は廃止されていない。本件では立地審査指針を適用していないことの当否が問題となったにもかかわらず、本決定は規制委員会の方針を是認しただけである。
(6)避難計画
本決定は、避難計画の争点について、原発事故が発生する具体的危険性について疎明があったといえないから避難計画の主張の前提を欠くとする。
しかし、原発の安全性は、第1から第5の防護階層がそれぞれ独立して有効に機能することによって、ようやく確保される。なぜなら、原発事故が起きた場合に国が崩壊しかねないほどの甚大な被害をもたらすにもかかわらず、原発事故の要因である地震、火山等の自然現象の発生は予測できず、事故収束も至難の業であるため、何重にも独立して防護する必要があるからである。
本決定は、このような深層防護の考え方に真っ向から反し、原発が安全でないままに運転を認めてしまった決定である。
元日の能登半島地震によって、避難計画が地震による原発事故時には機能しないことが改めて明らかになった。原発事故時に機能しない避難計画しかなくとも、原発を稼働することを認める本決定は、救命ボート等の救命設備を備えていない船舶の航行を認めるようなものであり、住民らを見捨てるものである。
3 以上のとおり、本決定は、人格権の価値を高らかに掲げた樋口判決決定とは真逆の決定であり、司法のあるべき役割を放棄したものと言わざるを得ない。
しかし、我々は、このような不当な決定に屈することなく、島根及び鳥取に住まう住民の、かけがえのない生命、身体、生活、文化を守るため、原発を止めるまで闘いを最後まで続ける所存である。
以上
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